これまでの研究概要

これまでに行った研究は大きく分けて,

  1. 確率 Runge-Kutta (SRK) (確率微分方程式 (SDE) の解過程の近似を与えるアルゴリズム) に関する研究,
  2. 計算機を援用した統計的手法による寿命解析に関する研究
に分類でき,現在は主に 1 の研究を行っている.よって,1 について説明する.
 SDE は確率的な振る舞いを考慮に入れなければならない物理現象を記述するのに優れている.常微分方程式 (ODE) がニュートン力学に始まる天体の運動等大きな物体の運動を記述する為に生み出されたのに対して,SDE は,水分子の衝突の影響を受ける粒子の運動等小さな物体の「不規則な」運動を記述する為に生み出された.その応用範囲は極めて広く,生体内の化学反応,ニューロン内の電位の伝播,乱流拡散,星からの電波,地震による地面の振動,波動関数によって存在確率分布が与えられた電子の運動経路など,様々な対象を記述出来る.
 しかし,SDE の解が解析的に求まるケースは極めて限定される.その為,近似解を与える数値解法が期待されるが,弱い意味で高次の近似 (弱い意味の近似次数とは,SDE の解に対する任意のモーメントの近似精度を表す) を与える解法に関しては,Kloeden と Platen による最も代表的な本 (1992 年) に載っている素朴な解法があるだけで,しばらくは大きな発展は見られなかった.
 小守はまず,論文 [Komori:2007] において,ODE の Runge-Kutta 法を自然な形で含む新しい SRK 法の族を提案した.これにより,SDE に対する数値解法を系統的に求められるようになった.実際,これを基にして論文 [Komori:2007a] では,SDE の拡散係数にある可換条件を仮定し,近似次数が弱い意味で 2 次,かつ,ODE に対しては近似次数が 4 次の SRK スキームを導出した.
 上の可換条件を仮定した理由は,相異なる Wiener 過程による確率二重積分そのものの近似を避ける為であるが,一般的な SDE に対する解法を得るにはこの条件を取り除く必要があった.論文 [Komori:2007b] では,確率二重積分そのものの近似を考え出し,一般的な SDE に対して弱い意味で 2 次,かつ,ODE に対して 4 次の SRK スキームを導出した.これにより,Kloeden と Platen による (それまでの代表的な) SRK スキームと比べて少ない個数の確率変数で,近似解を与えることが可能になった.
 ここまでで精度を上げることに成功したが,数値解法としてはもう一つ大きな問題「数値的安定性に優れているか」という問題がある.数値的安定性は,「解法が数値誤差の爆発を抑えられるか」ということに関わる重要な問題である.一般に,解法には二通りあって,陰的な解法は安定性に優れ,陽的な解法は安定性に劣る.しかし,陰的な解法には計算コストがかかるという欠点がある.SDE を数値的に解くにはいくつもの見本経路を計算しなければならず,もし解くべき SDE が偏微分方程式から派生するならその次元は大きくなる.これらのことがらは非常に高い計算コストに繋がるので,陰的解法には致命的である.したがって,安定性に優れた陽的解法が望まれる.
 小守と Burrage はこれを実現した.「ODE に対して一次の Chebyshev 法を埋め込むことによって,Euler-丸山スキーム (SDE の最も基本的な解法) の安定性を改善する」という Abdulle (2008) らのアイディアを,高精度の SRK 法に適用することを考えた.論文 [Komori:2012] では,ODE に対して 2 次 の Chebyshev 法を,Stratonovich 型 SDE に対する SRK 法に埋め込み,弱い意味で 2 次で,安定領域が拡張された陽的 SRK スキームを導出した.本論文は,「高次の Chebyshev 法が埋め込まれた高次の SRK スキーム」の導出に初めて成功した論文である.

その他,研究活動等についてはこちらを参照して下さい.

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Last updated: 2014/03/19